2010年04月15日 00:00 〜 00:00
ヤコヴ・M.ラブキン・モントリオール大学教授

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会見リポート

シオニズムへの内なる批判

藤原 和彦 (元読売新聞カイロ支局長)

「反シオニズム(anti-Zionism)」という、世界的に広がる政治的、宗教的思想がある。さまざまな理由からシオニズム(ユダヤ民族主義運動)に反対し、同運動が1948年パレスチナに建国したイスラエルの正当性を否定する。反シオニズムは、イスラエル内外のユダヤ人の一部にも主張者がいる。他の、例えばアラブ人などの反シオニストとは区別して「ユダヤ人反シオニスト(Jewish anti-Zionist)」と呼ばれる。

ユダヤ教のユダヤ人反シオニズム団体もある。同教超正統派に属するネトレイ・カルタで、「ユダヤ人は、メシアの降臨まで国家を持つことは禁じられる」との教義からシオニズムに反対。イスラエル国家の平和的消滅を主張し、パレスチナ解放運動に積極協力している。

ユダヤ人反シオニストで目立つのは知識人。ラブキン教授はそのひとりで、6年前、『トーラーの名において─シオニズムに対するユダヤ教の抵抗の歴史』(邦訳が4月に発売)を発表し、世界的に注目された。

さて、教授は講演で「シオニズム国家イスラエル」の正当性は現在、法、経済、文化、学問 軍事面で深刻な挑戦を受けていると説明。パレスチナ和平交渉にも言及し、「2国家解決案」である現在の「ロードマップ(行程表)交渉」は袋小路に入ると語った。2国家解決案はイスラエルの存続を前提とする。

気になったのは、教授が反シオニズムの学問的業績として、最近邦訳されたテルアビブ大学シュロモー・サンド教授の著書『ユダヤ人の起源』を紹介したこと。同書は「古代ユダヤ人の子孫はパレスチナ人」などと主張し、日本でも評判になった。

しかし、イスラエルの高名な歴史学者ベン・アミー・シロニー・ヘブライ大学名誉教授は同書を酷評。「パレスチナ人やヨーロッパの左派の人々におもねるために書かれたものと見え、学術的な価値は一切ない」と指摘している。

ゲスト / Guest

  • ヤコヴ・M.ラブキン / Yakov Rabkin

    旧ソ連 / Former Soviet Union

    モントリオール大学教授 / Professor of Montreal university

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