2010年04月01日 00:00 〜 00:00
アフマド・ラシード・ジャーナリスト

会見メモ

世界的なベストセラーとなった「タリバン―イスラム原理主義の戦士たち」の著者で、パキスタンのジャーナリスト、アフマド・ラシ­ード(Ahmed Rashid)氏が、最近のアフガニスタン・パキスタン情勢と今後の見通しについて語り、質問に答えた。
アフマド・ラシード氏のホームページ
http://www.ahmedrashid.com/
「ベトナムでも北アイルランドでも、西側のやり方は話しながら、戦いながらだったはずだ。アメリカはタリバンとの話し合いをいま­始めるべきだ」 
アフガニスタン情勢について、ラシード氏は軍事、米国、タリバン、パキスタン、周辺国などさまざまな切り口で、鋭く説明した。オ­バマ米大統領について「米国の目的は民主化から戦争終結に変わった。オバマ大統領は武装解除したタリバン兵士の再統合は支持する­が、タリバン指導部との和解は支持していない。軍事攻勢でタリバンを弱体化させてからなら、対話ができると考えている。しかし、­適切な合意を作るためには、いまから話し合うべきだ」とタリバンとの直接交渉に踏み出すよう求めた。
タリバンに関して「交渉賛成派は多い」と述べ、①30年間の戦争で犠牲者を多く出し疲れている②イランやパキスタンに操作される­ことに嫌気がさしている③米軍撤退後、軍事的に権力を奪っても国際社会で孤立し支援は得られないので、カルザイとの連立が有利と­みている―――と理由をあげた。その上で、国際社会が速やかにタリバンとの対話開始を決定するよう繰り返した。
周辺国については「米国がいなくなると信じているし、撤退後どうするか各国が計画をたてている。アフガン干渉のための計画だ」と­指摘。パキスタンは「インドをアフガニスタンから排除する」であり、イランは「ヘラートなどアフガン西部での影響力を保つ」とそ­れぞれの立場を説明した。
日本についても触れ、「2002年に来日した当時はアフガンへの関心が高かったのに、今回の来日では、国会もメディアも一般市民­もアフガンを議論せず関心も持たないのは残念だ」と語った。
パキスタンの国内情勢についても「アフガンより複雑で危険だ」と現状を詳しく話した。
司会:脇祐三企画委員(日本経済新聞)


会見リポート

アフガン安定は時間との戦い

脇 祐三 (日本経済新聞論説副委員長)

オバマ米大統領は就任後、「アフガニスタンは対テロ戦争の主戦場」という表現を避けるようになった。米国内で厭戦気分が強く、「出口」の明示が政治的に重要になったからだ。米軍を増派する一方で、2011年7月から米軍撤退を始める方針を米政権は示している。

アフガニスタンをめぐる国際情勢分析で知られるパキスタンのジャーナリスト、アフマド・ラシード氏は囲む会で、現地の情勢安定に向け「あと16カ月で多くのことを達成できるのか」という危機感を鮮明にした。

カルザイ政権の統治能力は弱く、34州のうち30州でタリバンの勢力回復が目立つ。その状況下で、米国は民主化やタリバン打倒といった目標にこだわらず、軍事介入の幕引きに傾いた。そして、タリバンも他の政治勢力も周辺国も、米軍撤退をにらんだ駆け引きを始めている。米政権は軍事作戦でタリバン勢力を押し戻した後なら話し合いを始められるという考えだが、包括的な政治合意を急がないと、情勢はさらに混迷の度合いを深める──。

そう指摘するラシード氏は、「タリバンも消耗しており、完全な国際的孤立を恐れている」「米国と国際社会は今すぐタリバンとの話し合いを始めるべきだ」と強調した。その訴えの切迫感が、まず印象に残る会見だった。

アフガン情勢と密接に関係する隣国パキスタンの国内事情、イラン、インド、中国など周辺国の政治的な思惑についても、要点を押さえた説明で参加者の理解を深めた。

「日本はアフガン周辺国のすべてと友好関係にあるのだから、もっと広範な役割を果たせるはず」「日本のメディアの関心の低下に失望している」。日本人ジャーナリストが消息不明になるなど現地の状況は厳しいが、日本への苦言が多かったことも付言する必要がある。

ゲスト / Guest

  • アフマド・ラシード / Ahmed Rashid

    パキスタン / Pakistan

    ジャーナリスト / Journalist

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