2010年03月25日 00:00 〜 00:00
宮家邦彦・外交政策研究所代表・立命館大学客員教授

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会見リポート

米中サイバー冷戦という深層

服部 健司 (時事通信外信部長)

ネット検閲をめぐるグーグルの中国撤退は「言論の自由」や経済的側面からとらえられることが多いが、宮家氏は深層として「米中サイバー冷戦」の構図を提示した。「グーグル攻撃は氷山の一角。軍事面の意味を理解しないままこの問題を論じるのは危険」と言い切る。極めて明快かつ刺激に満ちた切り口だ。

宮家氏によると、人民解放軍は米国などを標的にしたハッカー攻撃と情報窃取を繰り返す中で、サイバー技術を著しく向上させた。いまでは「核兵器に勝るとも劣らない抑止効果を持つ」と認識しているという。

念頭にあるのは台湾有事。継戦能力に劣る中国は-25最初の数時間が勝負であり、集中的サイバー攻撃で米国の情報キーポイントを麻痺させる。それによって軍事介入を遅らせ、台湾侵攻を既成事実化する作戦だ。宮家氏はこれを「中国版真珠湾攻撃」と呼んだ。

その際、アジアの同盟国である日本が「必ず最初にサイバー攻撃の標的になる」と同氏は予言した。

40枚に及ぶスライドの表示に導かれ、新たな知識や視点を次々注入される。まさに「聞いて得した」と思わせる講演。「米国も同じことをやっており、解放軍のサイトに侵入しているはず」との指摘や、解放軍と優秀なハッカー軍団の共生関係(アウトソース先と人材供給元)、政・経・軍一致の中国ならではのサイバー技術汎用性などが、とりわけ興味深かった。

グーグル騒動で注目された中国のネット検閲は「組織的で重層的」だが、最新検閲ソフトのPCインストール義務付けは昨年、国内でも猛反発を食らい、導入が延期されたという。ネット利用者は世界最多のおよそ4億人。ネット世論が政策を動かすこともあると言われる。彼らがいつまでも統制に甘んじるのか。講演を聴きながら、覚醒した中国ネチズンの「ネットの反乱」を夢想した。
 

ゲスト / Guest

  • 宮家邦彦 / Kunihiko MIYAKE

    日本 / Japan

    外交政策研究所代表・立命館大学客員教授 / the representative of diplomatic policy laboratory ,a guest professor of Ritsumeikan University

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