2010年03月24日 00:00 〜 00:00
我孫子和夫・前AP通信北東アジア総支配人

会見メモ

AP通信東京支局で記者と経営にたずさわり北東アジア総支配人を長く務めた我孫子和夫さんがシリーズ研究会「世界の新聞・メディ­ア」⑥で、国際通信社の役割とインターネット時代に対応する新しいメディアについて語った。
The Associated Press (AP)のホームページ
http://www.ap.org/

「いまのWeb2.0の先にはWeb3.0があり、エキスパートと権威者(オーソリティ)が復権するといわれる。プロのジャーナ­リストや報道機関が発信する信頼できるニュース情報が求められる時代へ移り変わっていくでしょう」
我孫子さんはまず、「国際通信社」としてのAPの仕事を説明した。「国際通信社」とは、世界中に支局を維持し、1日24時間体制­でニュースを取材し、100カ国以上の数千の報道機関に配信する通信社であり、AP、ロイター、AFPをさす。
2009年12月11日のこの研究会でチャールズ・ルイス・アメリカン大学教授がNPO化する調査報道を話したが、加盟社の組合­組織であるAPは1846年の創立以来、非営利の報道機関であり続けた。
加盟社の新聞、テレビにニュースを提供する「ニュースの卸し」であり、B to Bのビジネスモデルをとってきた。iPhoneやスマートフォンの登場により、ニュースを直接、ユーザーに配信するB to Cモデルも採用した。ただ、APの伝統である「組合主義」にもとづき、加盟社の情報も一緒に提供される。
最新の戦略はAP Gatewayと呼ばれ、新しいSplinternet(分裂・分割されたインターネット)時代に対応する。iPadを活用し、­加盟社も参加できる課金モデルのニュース・アプリケーションに取り組んでいる、という。

Web3.0やAPGatewayについてトム・カーリーAP社長のスピーチ
http://www.ap.org/pages/about/pressreleases/pr_022610b.html

我孫子さんは「いま何が起こっているか人々が知ることを助ける仕事がジャーナリズムだ。速報や断片的なニュース、あるいはSNS­(Social Network Service)で他人から回ってくるニュースの次の段階では『信頼できるニュース』が必要とされる。オーソリティとしてのジャ­ーナリズムが求められるだろう。特に、印刷の紙もインクも輸送のトラックもいらないiPadをいかに活用するかが新聞の課題にな­る」と話し、iPadの登場に強い関心を示した。
APのクレジットをつけないでAPの記事や映像が日本で報道されることに関連して、「日本ではニューズソースを特定しない記事が­多いが、APではニュースソースを匿名にする場合、匿名の理由を明らかにし上司の許可をとらなければならないシステムになってい­る」と説明した。

AP通信の報道倫理や匿名情報源の扱いについてAPの方針
http://www.ap.org/newsvalues/index.html

司会:瀬川至朗・日本記者クラブ企画委員


会見リポート

有料化 プロのコンテンツで逆攻勢

二藤部義人 (共同通信ビジュアル報道センター長)

AP通信がデジタル時代で最重要課題と位置付けているのが、PCや携帯端末に配信するコンテンツの有料化だ。カーリーAP通信社長は「今はかつてないほど、より多くの人々が、より多くの場所で、より多くのニュースをより頻繁に求めている時代になったけれども、われわれが苦労し、危険を冒してまでも報じるニュースに対し、適正な価格が支払われていない」と指摘。検索サービス各社に対して適正価格での有料化を求めて逆攻勢をかけている。

課金を支えるために、APは不正利用をやめさせてネット上での記事の無断使用を監視追跡する「ニュース・レジストリー」(APニュース登録システム)を開発した。配信するコンテンツにタグ(電子名札)をつけ、いつ、だれが、どこでそのコンテンツをネット上で使ったかが分かる仕組みだ。

グーグルなどを開かなくとも、コンテンツ提供側と消費者が直接、携帯端末を通じて結び付くメディア新時代では、それぞれが独立した機能を持つ、さまざまな携帯端末に対して、記事、写真、動画などを配信する仕組みも必要だ。APはデジタル情報コンテンツを消費者に有料で提供するビジネス部門「AP Gateway」を新設し、電子リーダーとしては今年最も目玉のアップルのiPadに配信できるアプリケーション開発を進めてきた。

新時代に求められるコンテンツとして我孫子さんは「しっかりとした訓練を受け、厳格な倫理綱領を順守するプロのジャーナリストあるいは報道機関が発信する信頼できるニュース情報」「プロの専門的分析」と強調した。

「世界最古で最大の通信社」APで31年間務め、今年初めに北東アジア総支配人から顧問に退いた我孫子さん。技術革新に素早く対応しながらも、大事なのはやはりコンテンツとの大先輩の助言をかみしめたい。

ゲスト / Guest

  • 我孫子和夫 / Kazuo OBIKO

    日本 / Japan

    前AP通信北東アジア総支配人 / General manager Asia of front AP communication northeast

研究テーマ:世界の新聞・メディア

ページのTOPへ