2010年03月15日 00:00 〜 00:00
ダンビー・ドルリグジャブ・モンゴル大統領府長官

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会見リポート

牧畜を語らない民主化第一世代

町田 幸彦 (元毎日新聞編集委員)

モンゴルは冷戦期、「ソ連の16番目の共和国」とやゆされた。その国の民主改革を担った第一世代を代表する政治家の一人がドルリグジャブ氏だ。記者会見で「あれから20年が過ぎた」という言葉には感慨がこもっていた。

会見では、外資導入による鉱工業とりわけ鉱物資源開発をモンゴルが重視することが強調された。金、銅、石炭、ウラン、レアメタルの「豊かな資源立国へ」という着想は聞こえがいい。同時に、環境問題だけではない危うさも伴っている。

1990年夏、首都ウランバートルを筆者が訪れた際、民主化運動に賛同する若者たちの話を聞いていて首をかしげることがあった。

「モンゴルは農業で成功できなかったから、工業の発展を目指す。電力は原子力発電でまかなう」

農業とはこの国で第一義的に牧畜業をさす。一党独裁時代の人民革命党が何よりも経済政策で失敗したのは家畜増産だった。それがだめだから工業へという考え方は、現実の難題を直視しない甘えの論理でしかない。

心地よい論理の飛躍にモンゴルの政治は小躍りしやすい。そして国民生活は翻ろうされてきた。

「資本主義を飛び越えて社会主義」に向かう図式的スローガンがかつて、地方の放牧地に喧伝された。その結果、モンゴルの人々が90年代までに経験したのは、牧畜業の停滞と牧畜民の貧困化であり、しなやかな調整システムを継承した遊牧社会の崩壊だ。

「牧畜業を飛び越えて鉱工業国へ」。もし、現在のモンゴルの政治指導者たちがこのような発想にとらわれ続ければ、国土の荒廃は一層進むだろう。最も肝心な牧畜業の将来について語らないドルリグジャブ氏を見ていて、残念ながら不安はさらに深まった。
 

ゲスト / Guest

  • ダンビー・ドルリグジャブ / Dambii Dorligjav

    モンゴル / Mongol

    モンゴル大統領府長官 / Secretary of Mongolia Executive Office of the President

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