2009年05月08日 00:00 〜 00:00
岡部信彦・国立感染症研究所幹線情報センター長

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会見リポート

正しく怖がること

西井 芳夫 (読売新聞出身)

なにをさておいてもパニックを防ごう、との呼びかけが岡部氏のメッセージであった。特に「政治、行政、医療、メディア=判断者=がパニックにならないこと」と強く訴える。

もっともであるが、国内の患者が急増し始めた場合、さらにいわゆる第2波が襲来した時に、はたしてどのような見出しやニュースが溢れるのだろうか。社説や記事に「冷静に対応を」といった文言が繰り返し見うけられたのは、過去の経験からにじみ出るメディアの自戒の念も込められていよう。

岡部氏は、感染の形態、予防、流行規模の想定、抗インフルエンザ剤の使用方針など、新型インフルエンザに係る全体像を研究会で描き出した。一方でたとえば食品を通しての感染の可能性について「インフルエンザは呼吸器の感染症。たとえ胃の中にウイルスが入ったとしても胃酸で不活化する。それでも心配なら加熱すればいい」と、素朴な疑問にも答えて「手洗いを励行して、症状のある人はぜひマスクを」など、一人一人が守るべきこと、協力するべきことに言及。「抗インフルエンザ剤は治療のために使用することが最優先。取材に行くからといって予防のために飲むのはやめてほしい」とくぎを刺しつつも「しかし熱が出たらすぐに飲んでください」とフォローした。

新型インフルパニックを防ぐ、という記事が5月2日の読売新聞朝刊に掲載され、「正しい情報 知的ワクチン」と袖見出しにあった。記事に登場した、災害・リスク心理学が専門の広瀬弘忠・東京女子大教授のことばである。

その“知的ワクチン”を岡部氏は研究会で我々に大量投与したのだ。そのうえで「薬の備蓄や国内の医療体制も整いつつある。むやみに怖がらず、正しく怖がること」と結んだ。
見えない敵に対する不安は払しょくしきれないが、なすべきことに臨む心構えは、はっきりと見えてきた。

ゲスト / Guest

  • 岡部信彦 / Nobuhiko OKABE

    日本 / Japan

    国立感染症研究所感染症情報センター長 / Head, National Institute of Infectious Diseases

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