2009年04月03日 00:00 〜 00:00
塩川伸明・東京大学教授

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会見リポート

ロシア・ナショナリズム考察

常盤 伸 (東京新聞外報部デスク)

旧ソ連の民族問題に関する大部の研究書や民族問題に関する一般書を最近、次々と発表している塩川教授による講義は、慎重な語り口ながら、広い知識と深い洞察が印象に残った。

ソビエト民族政策について、少数民族の自決権が蹂躙され、ロシア化 が推進されたとの見方がある。塩川氏は、こうした「裏返しの公式論」を退け、ソ連政権は現実には各共和国でアファーマティブ・アクションや、「土着化」政策を進めようとし、それが履行過程で新たな矛盾をもたらした複雑な側面を強調する。

実はこれが中心民族ロシア人の「逆差別意識」を惹起、ロシア・ナショナリズムを喚起するに至った。ロシアのような大国のナショナリズムが、被害者意識と表裏一体との視点は興味深い。  こうした視点からグルジア紛争について「ロシアはグルジアが憎いのでなく、米国がロシアを虐げられた地位に置こうとしている時に、米国のお先棒を担いでいる、という意識がある」と指摘する。

また、ロシアが独立を承認した南オセチアやアブハジア問題の展望に ついては、米国の対ロ政策など、国際環境の変化が重要な要因になる、との見解だ。ソ連崩壊から再来年で20年。崩壊を歴史的必然とみるのが今や定説の感もあるが、塩川氏は歴史上の他の帝国同様、「特殊な条件がそろい、たまたま分解した」との持論を示した。

塩川氏は最後に、日本でのロシア観が「行き過ぎ」ており、心ならずも、「煮え切らない弁護をすることがあり、落ち着かない気分になる」と心情を吐露した。昨年夏までモスクワ特派員だった者として、大いに共感する。権威主義的な現体制の実態を正確に伝えつつ、「等身大のロシア」をどう伝えるか。ロシア報道のむずかしさをあらためて痛感した次第だ。

ゲスト / Guest

  • 塩川伸明 / Nobuaki Shiokawa

    日本 / Japan

    東京大学教授 / Professor, University of Tokyo

研究テーマ:ユーラシア

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