2009年03月04日 00:00 〜 00:00
樋口美雄・慶應大学教授「雇用問題」3

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会見リポート

製造業派遣の禁止には慎重

左山 政樹 (読売新聞社会保障部次長)

世界的な景気後退により、日本でも、前例のない雇用調整が行われている。派遣社員や期間従業員に対する派遣切りや雇い止めだ。背景に何があるのか。樋口教授は興味深い図表を示しながら、働き方、働かせ方の変化を分析した。

まず非正規雇用が増えた原因の変化。1997年ごろまではパート・アルバイトの増加が主因だったのに対し、98年以後は派遣や契約社員らが急増したためとみられる。つまり増え方の質に変化が表れているわけだ。過剰雇用の解消にかかる期間も、樋口教授の計算によれば、80年から97年までは2・9年だったのに対し、98年以降は2・2年と、短くなっていた。

経済界は正社員のかわりに有期労働者を雇い入れ、不況期に備えた雇用調整の仕組みを作り上げたとも受け取れる。「97年のアジアの通貨危機が98年の日本の金融危機につながった。この時期を境に、日本の企業経営にパラダイムの転換があったのではないか」と説いた。

(1)労働組合やNPO、政府などが連携して、雇い主が労働法や雇用契約を順守するよう啓発活動を強める(2)トライアル雇用などで再就職の手立てを広げる(3)雇用保険の適用拡大──といった対策を提案する。「再就職させることが先決。再就職先で非正規から正社員へ転換できるような支援策を考えるべきだ」とも付け加えた。きわめて現実的だ。

ただ、最も関心の高い製造業に対する派遣の是非に関しては「単純に禁止しても偽装請負などの陰湿な方向に行くだけだ。雇用の量の拡大と質の向上は担保できないだろう」と禁止に慎重な立場を取った。ここは評価が分かれるかもしれない。

製造業派遣は麻薬に似ている。コスト削減に即効性こそあるが、技能の伝承や職場の士気に悪影響を及ぼす。使い過ぎ(中毒)に陥れば企業の健康は失われるだろう。

ゲスト / Guest

  • 樋口美雄 / Yoshio HIGUCHI

    日本 / Japan

    慶応大学教授 / Professor, Keio University

研究テーマ:雇用問題

研究会回数:3

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