2009年02月06日 00:00 〜 00:00
水村美苗・作家

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会見リポート

新聞に古典文学の連載を

森脇 逸男 (読売新聞出身)

会場は定刻前に満員となった。テーマの衝撃度もさることながら、話者は、『続明暗』や『私小説』、『本格小説』など、1冊ごとに読書界の話題をさらう平成の美女だ。一目見ておこうという好奇心会員(筆者もその1人)も多かったのだろう。

現れた水村さんは、まず、源氏物語や近代文学を生んだ日本語を亡びさせるのは、あまりにもったいないと、執筆の動機を語った。ベネディクト・アンダーソンの『想像の共同体』を引用し、世界中で6千種は超えるとされている言語を、「普遍語」「現地語」「国語」と区分し、「二重言語者」、書物の総体としての「図書館」といった独自の術語を駆使しての、やや早口の説明は、知的な興奮をかき立ててやまない。

多くの学生は、わずか百年前の漱石の小説が読めない。普遍語としてのしかかる英語の重圧の下で、日本語を亡びさせないためには、何が必要か。英語教育強化に懸命な文科省に、水村さんは鋭く異議を申し立てる。英語で議論ができ、国際社会で活躍できる優秀な人材を育てることは必要だが、それは国民の一部、少数の「選ばれた人」でいい。それよりも、日本語教育にもっともっと力を入れるべきだ。世界でも特異な表記法を持つ日本語、その書き言葉が消えることは、世界の文化にとっても、大きい損失だ、と強調する。

質疑に移って、新聞への注文、「表現を自己規制しないでほしい。古典文学を連載してほしい」。今の小説は、「日本語の密度が軽くなっている」。ノーベル賞は、「選ぶ人は日本語が読めない。翻訳を読んでいるに過ぎない」とばっさり。

聞いていて、日本語に寄せる愛情に打たれた。千年の昔、日本には紫式部、清少納言という世界的な才女がいた。21世紀の今、日本語を救うのは、まさに平成の才女なのだろう。

ゲスト / Guest

  • 水村美苗 / Minae MIZUMURA

    日本 / Japan

    作家 / Writer

研究テーマ:著者と語る

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