2009年02月19日 00:00 〜 00:00
エフライム・ハレヴィ・イスラエル情報機関モサド元長官

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会見リポート

中東に包括的な和平は必要ない

出川 展恒 (NHK解説委員)

イスラエルの情報機関モサドに40年近く在職し、1998年から2002年まで長官を務めたハレヴィ氏。イスラエルの現代史を、文字通り「裏側」で動かしてきた人物による貴重な記者会見である。

モサドの長官は、本来、その名前さえ公表されない国家機密であるが、その当人が、自ら関わった諜報活動や秘密作戦について生々しく記した著書『モサド前長官の証言 ~暗闇に身をおいて~』(光文社刊)をひっさげて来日した。印象深いのは、ハレヴィ氏が、個々の事象を歴史的視点に立って分析している点である。

これは、現代史研究と自らの体験を擦り合わせて考える姿勢を反映したものだ。「なぜ、パレスチナ国家は樹立されなかったのか?」「それは、パレスチナ人に、国家をつくるための強固な意思と戦略、統一された運動が存在しなかったからである」「パレスチナ人に国家樹立の能力があるのか疑問だ」──このように述べるハレヴィ氏だが、イスラエルによる占領の継続や入植地建設については、全く言及せず、創成期のイスラム組織「ハマス」を育てたのは、実はモサド自身であったことにも、触れようとはしない。

1300人を超える犠牲者を出した今回のガザ地区への軍事作戦が、長期的にみて、イスラエルの安全に寄与するのか。パレスチナ人に与える深い恨みがもたらすマイナスの影響をどう見ているのか。疑問はつきない。「包括的な和平合意は必要ない。個別の問題を粘り強く解決してゆくことが大切だ」という発言に、ハレヴィ氏の思想が凝縮されている。諜報とは、究極のリアリズムであり、ハレヴィ氏の「証言」は、イスラエル人の国家観や安全保障に関する認識を知るための手がかりを提供してくれる。

ゲスト / Guest

  • エフライム・ハレヴィ

    イスラエル / Israel

    情報機関モサド元長官 / Former Chief, Institute for Intelligence and Special Operations

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