2008年11月11日 00:00 〜 00:00
平野英治・トヨタフィナンシャルグループ取締役

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会見リポート

世界恐慌にはならない

太田 泰彦 (日本経済新聞論説委員)

「金融危機の本質は何か」という難題を、見事な包丁さばきで料理してみせた。借金の総量に比べて、資本が過小となった世界経済の現実。これを平野氏は、映画「ジュラシック・パーク」に似た構図だという。

物語では、人間が高度な技術を使って恐竜をコントロールしようとして失敗する。現実の世界でも、金融工学を駆使してデリバティブを活用し、リスク管理を高度化すれば、資本の価値は低下する。それでも世界経済は成長し続けるはずだった……。

日銀の理事として金融政策を担っていた平野氏は「すべては結果論だが」と正直だ。バブルの背景には、行き過ぎた金融緩和があった。金融機関も企業も個人も、みんなが強気になりすぎていた。経済を操る人間の技術を過信していた。中央銀行も例外ではない。

では、どうすればよかったのか。ここで平野氏は、米シティ・グループを率いたチャック・プリンス氏の名言を引用する。「音楽が鳴っている間は、踊りをやめられないのだ」。

巨大金融機関のトップは、事の本質を知っていた。グリーンスパン前FRB議長も知っていた。そして、日銀の中にいた平野氏も、おそらく同じ気持ちだったのだろう。

平野氏の喋り方には特徴がある。明朗闊達。威勢がよい。時にはベランメエ調にも聞こえる。だが、耳を澄ませると、慎重に言葉を選び抜き、語る順番を考え、言葉の外側に本音のメッセージを投影していることが分かる。豪胆な顔をした、繊細な中央銀行家なのだ。

ただし、ネクラではない。1930年代のような世界大恐慌にはならないと言い切る。世界大戦の前にはなかった国際協調の意志が、今は各国にある。新興国も力をつけてきた。

「低迷は、まあ2年くらいは続くんじゃないか」と気楽な口調で語ってみせる平野氏の目は、だが、笑ってはいなかった。

ゲスト / Guest

  • 平野英治 / Hideharu HIRANO

    日本 / Japan

    トヨタファイナンシャルサービス取締役 / Director, TOYOTA Financial Group

研究テーマ:金融危機

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