2008年09月30日 00:00 〜 00:00
「法の日」記者会見

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会見リポート

裁判員制度カウントダウン─法曹3者の思いの違いも─

津山 昭英 (朝日新聞社「報道と人権委員会」事務局長)

施行まで、あと約230日に迫った裁判員制度。10月1日の「法の日」を前に、法曹三者のトップが国民に向けて制度の意義を語ったが、その内容は、三者の制度にかける思いの違いが浮かび出るものになった。昨年に続いて2回目の企画。

最大の課題は、国民に裁判員に参加してもらえるかである。これまでに裁判所が行った模擬裁判は400回以上、従業員らが裁判員に参加できるよう、協力要請などのための企業・団体訪問が9000回、フォーラム100回、ミニフォーラム300回以上、説明会7000回弱。大谷剛彦最高裁事務総長が、会見で明らかにした「努力」の数である。

その成果の一つが、今年1月から2月にかけて行った最高裁の調査結果だ。裁判員に「参加したい」「参加してもよい」が17・1%、「あまり参加したくないが義務ならば参加せざるを得ない」が47・8%、「義務であっても参加したくない」が33・3%。この数字を、どのように受け止めるかは見方の分かれるところだ。

島田仁郎最高裁長官は模擬裁判での裁判員の感想などを踏まえて、「『参加したい』『義務なら参加せざるをえない』と答えた方が6割を超えた。裁判員になることの負担の重さを考えると、これほどの人が参加しようと答えてくださったのは大変、心強い。制度を実施していくことが可能な程度には十分、達している」と評価し、法曹界の代表者として、制度を軌道に乗せたいという思いをにじませた。

また、「主権者たる国民が裁判に参加し、犯罪という現実、犯罪者の処罰に直接向き合うことは、自分たちの社会を真剣に考える得難い機会になる」と強調、「実際に裁判員を経験した人が増えてくれば、参加して良かった、意義があったとの感想が次第に社会に浸透し、制度が無事定着していくであろうと明るい展望を抱いている」と語った。

これまでの刑事司法の見方の違いは、裁判員制度への思いの違いになって表れる。樋渡利秋検事総長は「これまでの制度が悪いという発想や、だれかが得をするという制度ではない。司法に親しんでもらうために、国民に(司法の)中に入ってもらう制度だ」と制度の目的を説明。「法廷でパワーポイントを使って説明したりして、裁判が分かりやすく、速くなった」と述べたが、取調べの可視化については「取調べ状況をいちいち映すのではなく、(被疑者が)なぜしゃべるようになったかを録音・録画するためだ」と、全過程の録音・録画要求にくぎを刺すことも忘れなかった。

日弁連の宮﨑誠会長は「戦後60年、どんな冤罪が起ころうとも強引な捜査や人質司法(否認する被告人を拘置し続けること)は変わらなかった。これが制度導入にあたり、大きく変化してきている。今の刑事裁判は、市民の皆さんが入らないと変わらない。取り調べの全過程の録画など、さらに改善しなければならない点は法改正を含め努力する。延期すれば、始まった変化の芽を摘むことになり、問題の多い今の裁判が続くことになる」と、実施延期論を批判するとともに、被疑者・被告人の人権擁護の立場からの期待を語った。

メディアが被疑者を犯人視する報道を避けるため、弁護人が取材に応じるべきではないか、という会場からの質問に対し、宮﨑会長は「盛んに議論している。一律のガイドラインは決められないが、制度が始まるまでには一定の結論を出さねばならない」と答えた。

また、実施後、似た事件で量刑が違う判決が出ることへの批判などが噴出することが予想されることについて、大谷事務総長は「丹念にデータを集めて公表し、第三者の方にも入っていただく検証機関をつくり、改善を図っていく」ことを明らかにした。

この12月には、裁判員候補者名簿に記載された30万人に、通知が届く。裁判員制度は、すでに動き出している。

ゲスト / Guest

  • 島田仁郎

    日本 / Japan

    最高裁長官

  • 大谷剛彦

    日本 / Japan

    最高裁事務総長

  • 樋渡利秋

    日本 / Japan

    検事総長

  • 宮﨑誠

    日本 / Japan

    日弁連会長

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