2008年09月17日 00:00 〜 00:00
井上紀子・作家

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会見リポート

娘が語る「父・城山三郎」

大留 明夫 (日本経済新聞出身)

作家と優しい父というふたつの顔を持った親に守られて育った“変な娘”が、人生半ばにして理解した父への思いを、初めて文章にした。『父でもなく、城山三郎でもなく』は、次女・井上紀子さんが、「作家・城山三郎」の文章書きの苦悩と熱中度に、絶対、物書きにはならないという禁を破ってしまった結晶ともいえる。

城山三郎が書き残そうと思ったものとして、初期の少年兵の記録『一歩の距離』と大反響を呼んだ『落日燃ゆ』、最後に書いた『指揮官たちの特攻』の3作品をあげた。「父は昭和2年生まれというのは特別な世代なのだとよく言っていました。1年違いで全然違った経験をしたのだよ」と。死を覚悟して少年兵となった城山三郎にとって、一夜にして価値観が変わった敗戦のショックは計り知れない。戦争を呪って書き続けた小説家としての苦悩の日々を娘として見続けてきた。

一方、作家でない父は随分と変わっていたと、数々のエピソードも披露した。

コンクリート造りの書斎と、家族が暮らす木造の家をくっつけて新居を建て、鉄の扉で仕切ってしまった父。新築の際には、外堀を巡らして、ペリカンを飼いたいと母に迫った父。無類の動物好き。ライオンの声が聞きたくて動物園のそばに転宅した祖父譲りだったのか。

また、思いついたらすぐやる変人で、引っ越しは大晦日もあった。一橋大学卒で一時は経済学を教えていたのに銭計算に全く無頓着な父などなど…「社会派」「気骨の作家」とは違った「愛する父の姿」を紹介した。

晩年、個人情報保護法に猛反対した城山三郎。「本当の怒りは溜めた揚げ句に、死ぬ気でガツンと立ち向かわねばならない」と語っていたという。

ゲスト / Guest

  • 井上紀子 / Noriko INOUE

    日本 / Japan

    作家 / Writer

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