2008年08月08日 00:00 〜 00:00
リチャード・バウチャー・アメリカ国務次官補

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会見リポート

物静かな生き証人

伊奈 久喜 (日本経済新聞論説副委員長)

国務次官補としての担当であるアフガニスタンやインドに関心がないわけではないが、リチャード・バウチャーという名前に懐かしさを感じて会見をのぞいた。本欄の趣旨からやや離れ、思い出話を少し─。

1989年3月にワシントンに着任した。国務省の記者証をとるには報道官の会見に毎日通う必要があると聞き、そうした。タトワイラー報道官は金髪で気の強そうな美人だった。ベーカー長官率いる国務省はタトワイラー氏のほか、ゼーリック顧問、キミット次官、ロス政策企画局長の4人の側近が動かしていた。

その後の軌跡を見ても、ロス氏はクリントン政権でも中東特使として活躍し、タトワイラー氏は国務次官、キミット氏は財務副長官、ゼーリック氏は世銀総裁などと華々しい。職業外交官であるバウチャー氏は、情報管理の厳しいインナーサークルの外縁で副報道官をしていた。苦労しただろう。

報道官の代打で会見するバウチャー氏は誠実で物静かなひとだった。毎日新聞の重村智計さんと3人で国務省のカフェテリアで昼食をしたことがある。ピザを切るナイフをゆっくり動かすひとだった。

そのひとがベーカー、イーグルバーガー、クリストファー、オルブライト、パウエル、ライスの6人の国務長官に、本来は政治色の濃い報道官、副報道官として仕える記録をつくった。誠実さが評価されたのだろう。

だれがやりやすく、だれがやりにくかったか、と会見で聞いてみた。「次の長官の下でも仕事をするつもりだから比較はしない。ひとりひとり尊敬すべき人物だ」。一方で「引退して本でも書いたら」とも。

その時に当クラブでまた話を聞けたら米外交史の一級史料が残る。


ゲスト / Guest

  • リチャード・バウチャー / Richard A. Boucher

    アメリカ / USA

    国務次官補 / Assistant Secretary of State

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