2008年05月23日 00:00 〜 00:00
安藤忠雄・建築家

申し込み締め切り

会見リポート

世界へ示せ「環境都市」への道

柴崎 信三 (日本経済新聞出身)

故郷大阪の町屋を現代に蘇らせた「住吉の長屋」から30年余り。「世界の安藤」として欧州や中東など世界を飛び歩く、その合間を縫っての総会記念講演は、オイルマネーに沸くアブダビの美術館建設やベネチアの古い建築物の再生、産廃の島から現代美術の拠点に生まれ変わった瀬戸内海の直島など、手がける内外の多彩なプロジェクトを画像で紹介しながら、文明批評とユーモアを交えた巧みな話術で惹きつけた。

「家族の情愛、忍耐と礼節、自然への敬意など、日本人の高い民度を世界に示したい」と語って、五輪開催へ向けた東京の都市再開発を文明のメッセージとして世界に提示する構想を示した。自然との共生を通して日本人という民族が培ってきた資質をそこに問うことでもあろう。

打ち放しのコンクリートを介して住む人の肌に雨風や底冷えを伝える「住吉の長屋」は、利便と合理性を優先した近代建築に対する批判だった。「建築とはハコをつくることではなく、ハコにどのような命を吹き込んでいくかの問い」とする建築家が、生命と環境との共存というこの世紀の最大の課題を都市作りのなかに探る、その高い志に感銘を受けた人は多かろう。

人気ロックバンド「U2」のボノ氏らを招いて、東京港のごみ埋め立て地に30年をかけて48万本の松や椎の木を植え、「海の森」を作るという計画が、生命が吹き込まれた新たな「ハコ」となるかどうか。

地元の阪神タイガースの熱心なファンと紹介されたが、一極集中で国内の仕事の大半が東京に集まる現状は「浪花っ子」を自他ともに認める氏にはいささか寂しいかもしれない。

ゲスト / Guest

  • 安藤忠雄 / Tadao ANDO

    日本 / Japan

    建築家 / Architect

ページのTOPへ