2007年10月19日 00:00 〜 00:00
ウェンディ・カトラー・米国通商代表部(USTR)代表補

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会見リポート

日米FTA─機は熟していない

太田 泰彦 (日本経済新聞編集委員兼論説委員)

USTRと聞くと、鼻っ柱が強く多弁なタフ・ネゴシエーターを思い浮かべるが、カトラー氏はちょっと雰囲気が違う。政治任命ではないキャリア官僚らしく、職務に忠実な能吏といった印象。隙こそ見せないが、質問に誠実に答えてくれた。

会見の焦点は日米間のFTA(自由貿易協定)が可能かどうかだった。お隣の韓国とのFTAをまとめた米側の主席交渉官がカトラー氏である。韓国と合意できたのなら、日本とはどうか? 参加者の関心は、この一点に集中していた。

果たして米政府の答は「ノー」であった。カトラー氏は「機は熟していない」と述べ、いくつか理由を挙げた。日本政府内に意見対立がある点。それを解消して意思統一する政治的な熱意が感じ取れないという認識。えん曲的表現ながら「交渉を始められないのは日本側の準備不足が原因」だと言っているに等しい。

カトラー氏は、この米政府の公式見解を伝えるために、あえて不得意な記者会見に臨んだのだろう。この人はUSTRの幹部の中でも、嘘をつくことやハッタリが下手な方だ。通商交渉の舞台でも、生真面目で実直な人柄が相手側に信頼され、様々な難局を乗り越えて実績を築いてきた。本人は「日本側の問題」と示唆したつもりでも、それが建前論であるのが見え見えなのが面白い。

米政府の本音は、正直なカトラー氏の言葉の端々に、にじみ出ていた。ひとたび日本とFTA交渉に入れば「後戻りや失敗は決して許されない」。過去に両国間で摩擦が燃え盛った「日米構造協議や包括経済協議以上に巨大な交渉となる」……。

難航必至の日米FTAに突き進むには、米国内で大きな政治的リスクが伴う。その賭けに出る体力は、米ブッシュ政権には残っていない。

ゲスト / Guest

  • ウェンディ・カトラー / Wendy Cutler

    アメリカ / USA

    米国通商代表部(USTR)代表補 / Trade Representative for Japan, Korea and APEC Affairs

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