2007年08月06日 00:00 〜 00:00
今西光男・朝日新聞ジャーナリスト学校主任研究員「著者と語る『新聞 資本と経営の昭和史』」

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会見リポート

緒方筆政─言論と経営の昭和史

前坂 俊之 (毎日新聞出身)

自社の歴史を書くことは難しい。現役ならなおさらである。朝日新聞ジャーナリスト学校主任研究員である今西氏の『新聞 資本と経営の昭和史─朝日新聞筆政・緒方竹虎の苦悩』(朝日選書)は大正から昭和戦前期の朝日の言論活動を、緒方筆政にしぼって編集面だけではなく経営、資本、人事、販売など多角的に焦点を当てながら、明らかにしている。

特に、15年戦争での朝日の言論敗北の過程を同社社史より詳細に分析。政治権力、軍人、右翼の圧力と協力、社論の転換、変節と迎合的な論調の背景となった記者たちの思想、言論、社内の人間関係、派閥人事、抗争などを歴史のダイナミズムの中で捉え直し、個々の人名とその言動を具体的にあげながら、緒方筆政の功罪に迫っている。この書きにくいテーマを冷静、鋭利に分析した筆力は見事で、新聞史上に残る労作に結実している。また、昭和史を知りたい読者にも貴重な1冊となっている、と思う。

語る会ではまず今西氏が大部な同書の概要を話して、言論の自由には経営基盤の確立、独立が不可欠であり、最前線で緒方が軍と戦い、社内をどうまとめていったか、その心構えを書きたかった、と強調した。

戦争や権力と正面から対峙した場合、ジャーナリズムとしての新聞経営者の姿勢はどうあるべきか─参加者には新聞OBが多く、この永遠の課題をもう一度、再考するいい機会となり、関連の質問が相次いだ。今西氏はゲスト帳に「かかる時、緒方さんの覚悟を思う」とサインした。

「42年体制が今も残っており、当時とメディアの状況が酷似している。経営者は緒方と同じ厳しい状況、決断を迫られている」と、締めくくった。

現代史のほとんどが新聞の報道によって作られる。朝日報道がその主流になったことは間違いない。現代史研究者にとって、メディアの内部状況、人間的背景がわかって大変興味深い一冊である。


ゲスト / Guest

  • 今西光男 / Mitsuo Imanishi

    日本 / Japan

    朝日新聞ジャーナリスト学校主任研究員 / Senior Researcher, Asahi Institute of Journalism

研究テーマ:著者と語る『新聞 資本と経営の昭和史』

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