2007年05月17日 00:00 〜 00:00
小杉泰・京都大学大学院教授「中東ベーシック」18

申し込み締め切り

会見リポート

イスラーム世界の3つのベクトル

寺内 正義 (NHK出身)

小杉泰氏は、日本きってのイスラーム思想史の泰斗である。その小杉氏がイスラームのいまを縦横に切って見せてくれた。

氏によれば、イスラーム世界は1967年の中東戦争のあと「第2次イスラーム復興」の時に入った。それは、モスク建設、貧者救済、巡礼の拡大など草の根のレベルのものから、革命的シーア派思想の勃興などいくつもの側面を見せて展開している。しかし見過ごしてはならないのは、そうした「イスラーム復興」の他に「ナショナリズム」と「西洋的近代化」を加えてあわせて3つのベクトルがいわば三つ巴で存在していることだという。「その典型をイラクのいまに見ることができる」。氏によれば、イラクの現政権は「イスラーム復興」に立つが(それにクルド民族主義が連帯する)、「ナショナリズム」に依拠してサダム・フセイン残存分子が活動し、また「西洋的近代化」ベクトルの親米派も存在する、という。

ここにいたっての分析は、ブッシュ政権のイラク戦略批判に及ぶ。「米国の政策はイラクにこの3つのベクトルが存在することを無視した、あるいは見ていなかったのか?」。

さらに、「イラクのシーア派とスンナ派の宗派対立は、宗教の利権集団化によるところが大きく、それをもたらしたのは米国だった」「イスラーム世界では9・11事件のあと過激派の勢いは衰えをみせていた。しかし米国のイラク戦争とイラク占領は、占領への抵抗という大義をつくり、過激派の息を吹き返させた」。

小杉氏は、『イスラーム帝国のジハード』(講談社)のあとがきで「現代を理解するための知の営為がいまこそ必要と説く編集者に共感して執筆した」と書いていた。その言葉が私の胸に残っていた。氏の知の営為に魅惑された1時間半だった。

ゲスト / Guest

  • 小杉泰 / Kosugi Yasushi

    日本 / Japan

    京都大学大学院教授 / Professor,Graduate Schools of Kyoto University

研究テーマ:中東ベーシック

研究会回数:18

ページのTOPへ