2007年04月03日 00:00 〜 00:00
スラユット・チュラノン・タイ首相

会見メモ

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会見リポート

伝わった民政移管への気迫

大江 志伸 (読売新聞論説委員)

「伝説」に彩られた人物である。

タイ国軍の高級将校だった父親は共産主義に傾倒して家族を捨て、ゲリラに身を投じた。スラユット氏6歳の時だった。

長じて自身も軍人となり、共産ゲリラの掃討作戦にも従事した。銃撃戦の末、血まみれの死体をあおむけにすると、敵兵は父親だった──。そんな悪夢を何度も見た、と米誌に語っている。“逆賊の子”は、特殊戦司令官、陸軍司令官、国軍最高司令官まで上り詰めていく。

1992年に起きた民主化弾圧事件では、指揮下の部隊がデモ隊に発砲。多数の死傷者を出したことを悔やみ、「軍は二度と政治に関与してはならない」を信条としてきた。

退役後は一時、仏門に入った。筆者もバンコク駐在中、スラユット氏の篤実、清廉な人柄を何度か耳にした。

そうした国民の信頼があってのこととはいえ、タクシン前首相を追放したクーデター後、暫定首相として「政治関与」の先頭にたたざるを得ない現状は、何とも皮肉だ。

スラユット首相は会見で、タクシン前首相の権力乱用、腐敗ぶりを指弾しながら、「軍の介入は公益にかなったものだった」と釈明に努めた。「暫定政権は軍事政権ではない」とも言い切った。

前首相の汚職疑惑捜査は4月に終える。憲法改正の是非を問う国民投票を9月末までに行う。12月16日か23日に総選挙を実施する。スラユット首相は会見で、民政移管に向けたロードマップについて気迫を込めて説明した。

経済政策の混乱やタクシン派の巻き返しといった逆境をはねのけて、民主再生の立役者という新たな伝説を紡ぎ出せるのか。正念場である。


ゲスト / Guest

  • スラユット・チュラノン / Surayud Chulanont

    タイ / Thailand

    首相 / Prime Minister

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