2007年03月16日 00:00 〜 00:00
阿南惟茂・前駐中国大使「中国」4

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会見リポート

“真の脅威”のシナリオ

五十川倫義 (朝日新聞論説委員)

昨春までの約5年、駐中国大使を務めた。そのほとんどの期間が首相の靖国神社参拝などで日中関係が冷え込んだ小泉時代と重なった。北京での体験を踏まえながら、日中問題や中国の今後について語った。

風邪でのどの奥から搾り出すような声だったが、相互理解への訴えは歯切れがよかった。

「日中間はまだまだ理解が至らない。相手の実態をよく知らないがゆえに、相手の将来像にたいへん極端な最悪のシナリオを想定し、またそれに過剰反応する」「お互いの影におびえて過剰反応することは最も愚かなことではないか」。エスカレートした国民感情の間で抱き続けた思いなのだろう。

日本にとって中国の真の脅威とは「改革開放が失敗して経済に行き詰まり、政治が極端に不安定になる」ことだという。

実際に中国の現状について語った数々の具体例を聞くと、抱える問題はかなり深刻だ。

中央に従わない地方。物価上昇率や失業率の操作。全く投機の対象になっている証券市場。年間8万7千件(05年)の騒乱。まだまだあるが、諸問題が社会主義市場経済という制度に起因するというから、なおさら深刻である。

「外見は勢いがいい。だが、矛盾がどんどん拡大している」「中国は外の世界から極端に過大評価されているのではないか」。言葉の端々から、中国の変調ぶりが伝わり、「真の脅威」のシナリオが現実味を帯びて聞こえた。

「オンレコですので」などと、大使時代のように慎重な構えを見せつつ、今回は踏み込んだ発言も多かった。質疑応答の中で、昨今の日本外交に対する率直な見方も聞けた。日本外交や中国問題で、どんどん大胆な発言をしていってほしい。

ゲスト / Guest

  • 阿南惟茂 / Koreshige Anami

    日本 / Japan

    前駐中国大使 / Former Ambassador of Japan to China

研究テーマ:中国

研究会回数:4

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