2006年10月06日 00:00 〜 00:00
渡辺靖・慶応大学教授「アメリカの底流」1

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会見リポート

旧来の差別から新しい壁の現出

宮本 倫好 (産経新聞出身)

政治、経済、軍事に偏重しがちな米国発の報道が、果たして米国の生の姿を十
分に伝えているか。この疑問に答えるシリーズの第1回にふさわしく、知的刺激
に満ちた話だった。

現地調査に基づく渡辺教授のポイントは、米国ではここ十年ほど、文化が政治
の中に占める重要性が非常に重くなった、という指摘だ。例えば、死刑制度、差
別の積極的是正、妊娠中絶、同性婚、ES細胞、知的設計論などをめぐる対立が
政治問題化している。こうした価値、信仰に基づく問題は、妥協が困難で先鋭化
しやすい。

中間選挙にしても、小さな政府、自己責任という点では政策の違いは少ない。
イラク問題も、反対派は理念を伴った代案が出せず、共和、民主は基本的に近
い。州レベルでは赤(共和)青(民主)と色分けされるが、カウンティ・レベル
では保守、リベラルが混在し、中間色の紫がしばしばだ。個人はもっと複雑だ。
保守化する米国といっても、黒人の国務長官が2代続き、次の大統領選挙で女性
が有力となるなど、単純に決めつけられない。

新しい社会現象として、渡辺教授は全米に5万あるゲート・コミュニティーを
あげる。住民の多くは白人富裕層。テロ、麻薬、犯罪、乱脈な性などから守られ
た勝ち組の自足の砦だ。自治体にとっても開発費、公的サービスの負担がないの
は魅力。メガ・チャーチも隆盛だ。若者をひきつけるため十字架も無く、カジュ
アルな服装の牧師が世俗的な話で対話を図る。ショッピング・モールもあり、同
じ社会層が集う教会自体がコミュニティーだ。一方で囚人が増え続け、刑務所産
業複合体が成長産業だ。坩堝を理想とした米国で、旧来の差別の壁が低下する一
方、新しい壁が実現しているのは興味深い。

ゲスト / Guest

  • 渡辺靖 / Yasushi WATANABE

    日本 / Japan

    慶応大学教授 / Professor, Keio University

研究テーマ:アメリカの底流

研究会回数:1

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