2006年08月25日 00:00 〜 00:00
但木敬一・検事総長

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会見リポート

「川流不息」─自立型社会と司法改革

伊藤 一郎 (毎日新聞社会部)

「川の流れはやまず(川流不息)」。昼食会後、謎かけのようなメッセージを色紙に残して降壇した。古代中国の「千字文」という漢詩の一節だ。「意味はそれぞれ皆さんお考えください」ということだったので、あえて私なりの解釈を試みた。

一つは、現在進行中の特捜部事件が政界に波及する見通しを示したという解釈。だが、これは私のような現役検察担当の疑心暗鬼かもしれない。従ってもう一つ、就任から2カ月を迎えた但木総長の決意表明ととらえたい。その含みは、講演の中で暗示されていたと考える。

但木総長は日本が今、過去にない変革の渦中にあるとの見解を示した。日本は歴史的に「権力と国民の間に一定の信頼関係があった」ため「戦後もイラクのような対米テロがなかった」という。そうした「お上任せの国」で「自発的革命は起きない」が、バブル崩壊で初めて「保護主義から国民自立型社会へ」の転換を迫られていると分析する。

とりわけ「司法は、国民にとってあそこに任せておけばいいという典型的なお上中のお上」であり、国民参加型の裁判員制度は「最先端を行く」改革だと強調する。そして、国民の関心の低さという懸念も承知で「日本が戦後、日本的民主主義を成熟させたことを考えれば、新しい制度を自分たちの社会に同化できないわけがない」と確信している。

一方で、日本ほど司法従事者の汚職が少ない国はないことに触れ、「日本司法は質的に世界に冠たる」とも自負した。「川の流れ」とは、いかなる変革期においても日本司法が変わらず守り続けていくべきものは「国民との信頼関係」だとする示唆であり、それを堅持していくというマニフェストではないか。

ゲスト / Guest

  • 但木敬一 / Keichi Tadaki

    日本 / Japan

    検事総長 / Prosecutor-General, Supreme Public Prosecutors Office

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