2006年05月26日 00:00 〜 00:00
手嶋龍一・元NHKワシントン支局長「著者と語る『ウルトラ・ダラー』」

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会見リポート

検証不能な真実に挑む「作家」

伊奈 久喜 (日本経済新聞論説副主幹兼編集委員)

何でこんなことまで知っているのだろうかと思わせる、神秘的な雰囲気を漂わす記者がいる。手嶋さんはそのひとりだった。話題の書『ウルトラ・ダラー』にも神秘性があふれている。これが本当に小説なのか、よくわからない。作家が読者が戸惑うのを楽しんでいる。それが行間ににじむ。

話しぶりもそうだった。一通りの話を終えたところで司会者が「小説と同じで、どこまでがフィクションでどこまでがノンフィクションかわからなかった」と感想を語ったが、会場の多くの人々が同じ思いだったろう。「ここはフィクションと思うところは本当でしょう。本当と思うところは加工されている」との雑誌での対談相手の発言が紹介されて煙に巻かれてしまったからだ。

スパイ小説だから内容の説明は避けるが、登場する外務省アジア大洋州局長が実在の人物を連想させるとされる。この点を聞かれて「お名前を挙げられたひとは大変魅力的な人物。全然似ていない」とかわした。三省堂書店でフィクションではなく、ノンフィクション部門の第2位になっていたのを見て「うなだれた」といい、「何年かするとそうなるかもしれない」とも。

記者が取材に基づいて暴露したニュースは、関係者が認め、いわば他者による検証が可能になって初めて真実とされ、歴史に残る。が、半永久的に確認ができず、実は真実であっても検証不能なままの情報もありうる。だからウルトラ・ダラーは小説の形をとったのだろう。

NHK時代はスーツをきっちり着込み、ワシントンのパワーエリート然としていたが、クラブに現れた時はアスコットタイを巻き、髪も少し前に垂らして自由人風。作家・手嶋龍一を見た思いがした。

ゲスト / Guest

  • 手嶋龍一 / Ryuichi Teshima

    元NHKワシントン支局長 / Former NHK Washington D.C. Branch Manager

研究テーマ:著者と語る『ウルトラ・ダラー』

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