2006年05月24日 00:00 〜 00:00
藤原正彦・お茶の水女子大学教授

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会見リポート

大逆襲に立つサムライ

吉村 信亮 (中日新聞社相談役)

ミリオンセラー『国家の品格』を引っ提げて論壇に殴り込みをかけた藤原正彦・お茶の水女子大教授がマスコミ総本山に初見参した。たまたまエレベーターに乗り合わせた、この今を時めくサムライは、と見ると長身・痩躯にアタッシェケースをぴしりと決めて、いかにもヤリ手ビジネスマンふう。声高な「日本主義」の主は根っからの「日本的」風貌のはず、という勝手な思いこみのはずれた私は、満員の同輩たちとともに正調・藤原ブシに浸ることになった。

クラブ総会記念講演会の演壇に立った藤原氏はまず、「このところ忙しすぎて、考えるヒマがなく、バカになり、品格もなくなりそう」と笑わせた。スピーチの冒頭、自己憐憫のスパイスを効かせ、会場を和ませるアメリカン・スタイルである。

が、本筋に入ると、お馴染みの日本調がほとばしり出た。

〈この国は改革に次ぐ改革で、よくぞ日本の国柄を壊してくれた。改革=改善ではない〉

〈強力な官僚の指導が必要。官から民へ、と言うが、市場原理など、とんでもない〉

〈「会社は株主のもの」はおかしい。経営者と従業員のものだ〉

〈もののあわれを尊び、虫の音に音楽を聴く日本人の美的感受性は世界に冠たるもの。捨ててはならぬ〉

藤原語録の要は、グローバル化という名のアメリカ化の激流に「日本の美風」を失いがちな現状への、重い叱責であり、一連の政府の構造改革路線への、孤高の大逆襲であろう。その主張が国際派の数学者の口から出たこと、それに数百万の読者が熱く応えたことを見ると、「日本のアイデンティティー危機」は根深いのではないか。あらためて、そうしたことを考えさせる藤原氏の熱弁であった。

ゲスト / Guest

  • 藤原正彦 / Masahiko Fujiwara

    お茶の水女子大学教授 / Professor, Ochanomizu University

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