2006年04月24日 00:00 〜 00:00
ジョゼ・マヌエル・バローゾ・欧州委員長

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会見リポート

「説得の政治」のお手本

高畑 昭男 (毎日新聞論説副委員長)

見るからに柔和で誠実そうな印象を与えるバローゾ氏である。ポルトガルに生まれ、国際政治学者、国会議員、国連顧問、政治指導者(外相や首相)を歴任し、豊かな経歴を買われて欧州委員長に就任した。

質疑は政治、経済、安全保障から歴史、文化、伝統に至るまで実に幅広いテーマに及んだが、どの問題にもメモも見ずによどみなく、ていねいに答えてくれた。同時通訳の人に気の毒なほどに内容の濃い45分間となり、欧州の奥の深さが人物に体現されているようにも感じられた。

最近の欧州は、EU憲法の批准失敗や若年雇用をめぐるフランスの暴動など、欧州統合の動きが一時的にせよ頓挫して、「内向きの時代」への反動に揺さぶられているような気がしてならなかった。

その点を質問したところ、バローゾ委員長は「単発の事象に目を奪われず、長い傾向で見てほしい」と熱弁をふるった。60年前の欧州、30年前の欧州、15年前の欧州……。歴史を長い目で眺めれば、「欧州は着実に政治的にも経済的にも開かれた方向へ向かっている」というのだ。

豊かな知識と経験をもとにひたむきに説明する姿は「説得の政治」を旨とする欧州の知恵と蓄積を聴衆に印象づけたのではないだろうか。「ワンフレーズ政治」に流れたり、国民にじっくり説明する場に消極的な日本の与野党指導者とも異なる。言葉よりも先に手が出てしまいがちな(?)米国ともひと味違う。

共通の課題と共通の価値観を備えた日本と欧州の関係について、バローゾ委員長は「自然な戦略的パートナー」と例えた。豊かな歴史と政治的知恵に支えられた欧州の航跡は示唆に富む。日本にとっても、貴重な学ぶ材料にしていきたい。

ゲスト / Guest

  • ジョゼ・マヌエル・バローゾ / José Manuel Durão Barroso

    欧州委員長 / President of the European Commission

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