2006年03月13日 00:00 〜 00:00
長谷部恭男・東京大学教授「憲法」8

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会見リポート

立憲主義と平和主義

舟槻 格致 (読売新聞政治部)

若き憲法学会のリーダーは、最近活発化している改憲の動きにどう立ち向かうのか。耳を澄ませる聴衆に、長谷部教授は「そもそも近代憲法の拠って立つ『立憲主義』とは何か」という根源論から自説を展開した。

まず教授は、先輩教授の高橋和之氏が唱える「立憲主義とは、国の統治が憲法に従って行われること」という学会の通説の否定から、スピーチを始めた。高橋氏の言う立憲主義は中世ヨーロッパにも存在したが、長谷部教授によると、近代的な立憲主義の特徴は、「宗教とか根本的な価値観を公の場に持ち込まないこと」にあり、キリスト教が万能だった中世の立憲主義とは質的な変容を遂げているとされる。つまり、世の中には多様な価値を奉じている人々がいることを前提にした上で、思想信条の自由やプライバシー権、政教分離原則などを維持することが近代立憲主義だという。

教授は、近代立憲主義の内容の一つとして日本国憲法に盛り込まれた平和主義(9条)についても、独自の解釈を示した。法律には、たとえば「ある通りが駐車禁止になっているかなっていないか」など回答が一義的に決まる準則(ルール)と、「表現の自由」のように一義的に決まらない原理(プリンシプル)の2種類があり、9条は原理だと説く。その上で、9条について「『一兵たりとも許されない』との準則ではなく、常備軍を置くとしても、必要最低限にしなくてはならないとの原理だ」との解釈を導き出した。

ただ、国軍の在り方という国政の重要課題は、やはり準則として明確化すべきだと感じた聴衆が多かったようだ。それが明確でないと感じる人が多いからこそ自衛隊違憲論が根強く存在するのが現実だろう。

今後、さらなる議論の深まりに期待したい。

ゲスト / Guest

  • 長谷部恭男 / Yasuo Hasebe

    東京大学教授 / Professor, University of Tokyo

研究テーマ:憲法

研究会回数:8

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