2006年02月13日 00:00 〜 00:00
大野元裕・中東調査会上席研究員「中東ベーシック」12

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会見リポート

米国のもくろみにノー

石合 力 (朝日新聞外報部)

迷走が続くイラクの新政府づくりをどう読み解くか。新憲法に基づく今回の選挙で最大かつ唯一の争点は「宗派・民族というマグマ」だったとみる。米国が望んでいた世俗派主体の政権づくりに対して、イラク国民が突きつけた答えはノーだった。宗派・民族を超えた国民融和を目指したシーア世俗派のアラウィ元首相が率いるイラクリストは議席を大幅に減らして惨敗。かつて米国との蜜月を誇ったチャラビ氏率いるイラク国民会議は1議席もとれなかった。

宗派・民族が混在するイラクにはもともと分離・分裂に向けた「遠心力」がある。それを独裁によって封じ込めてきたのが旧フセイン政権だった。独裁を除去すれば、民主主義が花開くという米ブッシュ政権の主張がいかに実態とかけ離れていたかはあらためて言うまでもない。

今回の選挙では、昨年1月の選挙で大半がボイコットしたスンニ派が加わった。大野氏は「政治への参加、不参加がイラクの安定の度合いを占う一つのバロメーター」とみて、スンニ派を含めて78%という高い投票率に達した今回の選挙に一定の評価を与える。

ただ、人口比率で少数派のスンニ派が政治参加によって得られる利益は限られている。「民主主義が多数決の顔を持っているとすれば、分母が小さい人は必ず負けてしまう」からだ。だとすれば、スンニ派の不満は今後もくすぶり続けることになる。「政治プロセスが進めば、治安も安定する」(ブッシュ米大統領)という保証はない。

連立政権づくりに向けた方程式でも個々の政党の利益配分がカギになっている。「連立政権ができたとしてもこれは野合にすぎない」(大野氏)とすれば、新政権が資源の利権争いや憲法修正をめぐって衝突、分裂するのは時間の問題だろう。


ゲスト / Guest

  • 大野元裕 / Motohiro Ono

    中東調査会上席研究員 / Senior Research Fellow, Middle East Institute of Japan

研究テーマ:中東ベーシック

研究会回数:12

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