2005年11月18日 00:00 〜 00:00
青木冨貴子・ジャーナリスト「著者と語る」

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会見リポート

“731部隊”の謎に取り組む

堀越 作治 (個人会員(朝日出身))

当然戦犯に問われるべき人物がなぜ生き延びることができたのか、その裏には米占領軍とどんな取引があったのか─これが本書の原点である。

その人物とは、細菌戦の極秘作業を旧満州で指揮した関東軍第731部隊の隊長石井四郎だ。

戦後生まれの著者は、闇に包まれた占領時代の謎に強い興味を抱き、ニューヨークに住んでからも一貫して追及してきた。

たまたま1998年にニューヨークタイムズに載った小さな記事がきっかけになって「731部隊」の謎に取り組むことになり、本格的な資料集めを始める。

国立公文書館で見つけた資料は難解な英文で解読に苦労したが、そのあと日本に時々帰っては石井の関係者を探すうちに超一級の資料を手に入れることになった。石井家のお手伝いさんだった渡邊あきさん方で見つけた2冊のノートだ。

石井の自筆になる『終戦当時メモ45─8─6』と『終戦メモ46─1─11』を手にしたときは震えがきたという。さぞや、と思う。また、独特の崩し字と暗号めいた文を読み解くのに1年余りを要したという努力には、拍手を惜しまない。

こうして「731部隊」の謎解きが功を奏し、この作品に結晶する。

重点はもちろん、石井が細菌の人体実験を強行した事実、それが戦後なぜマッカーサーの関心の的となり、石井が戦犯を逃れるために占領軍とどんな取引をしたのか、にある。指揮系統のトップを天皇と書いて消した別人の英文資料も、見逃せない。

その上で著者は「石井の出世欲から出た731部隊がなければ、戦後アメリカ・ソ連も細菌戦を継続しなかったろうし、イラク戦争もあったかどうか」と結んだ。欲をいえば、この部分をもっと詳しく聞きたかった。




ゲスト / Guest

  • 青木冨貴子 / Fukiko Aoki

    ジャーナリスト / Journalist

研究テーマ:著者と語る

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