2005年11月30日 00:00 〜 00:00
畑中美樹・国際開発センターエネルギー・環境室長「中東ベーシック」11

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会見リポート

綱渡りの需給環境

中村 恒夫 (時事通信経済部長)

中東諸国はもとより、米国、欧州、中国に頻繁に出張し、最新の石油関連情報を仕入れて分析する行動派のエコノミストだ。講演前の4カ月も、90日を海外で過ごしていたという。

現在の原油高は、中国のエネルギー需要増加と米国の石油精製施設老朽化に原因があるとされる。畑中氏は、確認埋蔵量の面から見て長期的に供給不足に陥る心配はないと強調する一方で、一時的に原油の余剰生産力がショート(不足)する恐れが「心理的に価格を押し上げる要因になっている」と説明する。

それならば、余剰生産力を拡大すればいいのではないかと思えるが、米国の石油戦略と、欧米石油メジャーの経営方針が、阻害要因になっているというのだ。米国との関係改善が進むリビアは、かつての経済制裁が響いて設備が老朽化し、生産能力は半分に落ち込んでいる。イラン、そしてもちろんイラクも設備の近代化が遅れたままだ。「米国の国益によって左右される原油生産力」との分析は大いにうなずける。

現在のメジャーの経営者は、若いころ、石油危機後の高値で大規模投資を行ったものの、新規油田が稼働したときには石油価格が暴落した経験がある。そのトラウマが慎重な行動をとらせているほか、「株価維持のため設備投資よりも自社株買いをする傾向がある」と指摘した。

裏返せば、油田開発や生産設備の更新が投資対象として魅力を増さない限り、綱渡りの需給環境はなかなか解消しないことになる。中国の例でも分かるように、石油抜きで世界のエネルギー需要は賄えない。「世界経済の成長を阻害しない範囲ならば、一定の油価上昇が求められるかもしれない」という考え方は、インフレ懸念だけを重視する日本では見逃されがちな論点と言えよう。


ゲスト / Guest

  • 畑中美樹 / Yoshiki Hatanaka

    国際開発センターエネルギー・環境室長

研究テーマ:中東ベーシック

研究会回数:11

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