2005年11月29日 00:00 〜 00:00
リチャード・C.レビン・エール大学総長

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会見リポート

イノベーションと大学

鈴木 美勝 (時事通信編集局総務)

レビン総長の話は、イノベーション(技術革新)をキーワードにした、興味深い日米比較論だった。生産工程、品質管理で世界をリードしてきた日本が、90年代になって、なぜ経済的に低迷し、逆に米国経済が空前の成功を収めたのか。

総長がその明暗の決定的な要因としたのは「IT革命の準備ができていたか否か」、即ち90年代後半にIT革命として結実する技術革新の科学的基盤、基礎科学への資金提供といったインフラ整備の有無だった。その上で「マイクロソフトが日本で生まれていたら、日本の経済成長はかなり違うものになった」と力説した。

「20世紀後半、重要な経済勢力として出現した」イノベーション。それを育んだ米国には二大特性がある。

ひとつは、科学の基礎研究を安定的に育てていくための資金を容易に手に入れられること、もうひとつは、新たな企業を形成する際に生じる障壁がほとんどないこと。そこには、「科学の成果」を実利的な成果におきかえようという企業家精神、そうした考えを育んでいくための高等教育の理念|「学生たちに知的探求心をもたせ、独創的にものを考えさせる力」への固い信念がある。

一流の経済学者であり、グローバル化をめざすエール大学の教育者でもあるレビン氏の理論は、米国を支配するエリート層の考えを知るという点では、筆者に有益だった。

90年代の挫折にもかかわらず、なお質の高さを誇る日本の科学技術力、豊富な資金力、世界一流水準の教育|それらに照準をあて、日本との関係強化に改めて乗り出してきたエール大学。「中国との関係があまり強くなりすぎ、日本との関係を強化してバランスをとる意図があるようだ」|今回の使節団編成の準備段階で聞こえてきた声が、今おぼろげながら理解できるような気がした。

ゲスト / Guest

  • リチャード・C.レビン / Richard C. Levin

    エール大学総長 / President, Yale University

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