2005年09月09日 00:00 〜 00:00
笈川博一・杏林大学教授「中東ベーシック」8

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会見リポート

ガザ撤退と中東和平

布施 広 (毎日新聞論説委員)

笈川氏は20年を超えるイスラエル滞在経験があり、今もエルサレムなどに行っては現地の動きを追っている。大学教授になる前は日本の通信社やテレビの報道に携わったこともあり、豊富な中東体験とジャーナリスティックな感性が持ち味だ。類型的な見方に陥らないためには、現場に身を置いて実際に事象を見聞するに越したことはない。

中東情勢は大きな曲がり角に直面している。シャロン・イスラエル首相はガザからの撤退に踏み切り、抵抗するユダヤ人入植者を強制的に排除した。かつては入植を推進したシャロン氏の「路線転換」を笈川氏は「メタモルフォーゼ(変身)」ととらえ、サダト・エジプト大統領(故人)のイスラエル訪問と対比する。

そのサダト氏がイスラム過激派に暗殺されたように、和平につながるような決断は激しい揺り返しを生むのが常だ。与党リクード内でもガザ撤退への批判は強く、シャロン氏を支持する勢力と次期首相の座をうかがうネタニヤフ元首相らのグループに分かれて分裂含みの局面だ。

一方、パレスチナ側はガザ撤退を歓迎しつつ、これが最後の撤退になるのではないか、ヨルダン川西岸地区の入植地撤去にイスラエルは頑として応じないのではないか、と疑念を強めている。あながち杞憂とはいえない証拠に、西岸ではパレスチナ人の「領土」に食い込む形で「分離壁」の建設が進み、和平交渉の行方に暗い影を投げかけている。

笈川氏が示した写真、例えばガザのユダヤ人入植者が立ち退いた家の写真は、窓枠が一つ残らず取り外され便器さえ壊されていて、「パレスチナ人には何一つ渡さない」といった執念を感じさせた。

憎悪の根は深く、和平交渉の先行きも読みにくいことを実感させる研究会だった。

ゲスト / Guest

  • 笈川博一 / Hirokazu Oikawa

    日本 / Japan

    杏林大学教授 / Kyorin University

研究テーマ:中東ベーシック

研究会回数:8

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