2005年09月21日 00:00 〜 00:00
酒井啓子・アジア経済研究所「中東ベーシック」9

申し込み締め切り

会見リポート

イラクは“内戦的な状況”

国末 憲人 (朝日新聞外報部次長)

そう簡単に統治できないだろうと予想していたものの、ここまでひどいとは思わなかった。戦争から2年余りを経たイラクで、依然テロは衰えを知らず、治安回復にはほど遠い。市民の生活も安定しない。

こうした現状を、酒井氏は単に政治の動きを追うだけでなく、イラク社会の構造や市民の意識をふまえた上で説き起こした。

一般的に、イラク国内の対立はシーア派対スンニ派、クルド人対アラブ人といった形で伝えられがちだが、酒井氏によると、内実はもっと複雑だ。現在権力を握る移行政府には、旧フセイン政権に対して激しい恨みを抱く人々が多い。その結果、旧国軍などを国づくりに取り込むのでなく、あだ討ち、リベンジの対象と考えた。勝ち組にあたるクルド人、シーア派も、内部にそれぞれ対立の芽をはらんでいる。

酒井氏はこれを「内戦的な状況」と表現した。「今は接点で衝突しているだけだが、面と面で領土を取り合う旧ユーゴのような戦いに発展するかも」と最悪のシナリオを予想する。「イラクで私が言うことはいつも悪い方向で当たる」のだそうだ。

米国がイラク戦争の口実に使ったテロ問題への分析も示唆に富んでいた。例えば、イスラム過激派のテロにつきものの「西洋対前近代の衝突」との解釈を酒井氏は否定する。「テロを起こす側は米の政策など情報を熟知したうえで、ネットワークを広げている」と、テロリスト側の戦略の現代性を指摘する。また、米英の対応を「ピントはずれで、なすべき対処をしなかった」と評価し、テロの温床となる無秩序状態を蔓延させたと厳しく批判した。

今からテロ対策をやり直すために何が必要なのだろうか。機会があれば尋ねてみたいと思う。

ゲスト / Guest

  • 酒井啓子 / Keiko Sakai

    日本 / Japan

    アジア経済研究所 / IDE

研究テーマ:中東ベーシック

研究会回数:9

ページのTOPへ