2005年05月16日 00:00 〜 00:00
山折哲雄・国際日本文化研究センター長

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会見リポート

パクス・ヤポニカの可能性

森脇 逸男 (個人会員(読売新聞出身))

宗教学、思想史が専門の山折さんは、日本人の宗教性、生命観の分野で現在、最も耳を傾けさせる人物だ。以下、極めて乱暴ながら、1時間の講演を要約すると──。  日本の歴史には、平安350年、江戸250年の2度、長期平和の時代があった。ヨーロッパにもインド、中国にもこれほどの長期平和はなかった。その平和の原理は、軍事力が支えたパクス・ロマーナやパクス・ブリタニカとは全く異なり、宗教が大きい役割を果たしていた。

平安時代には、仏教と神道がうまく習合、さらに、象徴天皇制では政治的権力と宗教的権威が両輪となって国家が経営された。江戸の250年では、家康が制定した武家、公家、寺家の三つの諸法度で、社会は3すくみの構造となり、江戸の武力、京都の文化・儀礼、氏神と菩提寺の神仏共存体制が社会を安定させた。  加えて「たたりと鎮め」が独自な文化だった。万葉や源氏物語、謡曲の世界の御霊、物の怪、亡霊は、僧侶の加持祈祷、祈りで鎮められ、かえって民衆の守護神となっていく。

国家と宗教が正常なバランス関係にあることの大切さが、日本の歴史の教訓である……。  「日本には平和の時代についての研究は皆無だった」「鎌倉時代は宗教改革の時代ではない」などの指摘も興味深かった。パクス・ヤポニカ、日本の平和力は、つまるところ、公家の非暴力の文化、たたりを鎮める祈りにあるというのが山折さんの考えのようだ。神仏分離を進め、一神教の都市を形成した明治政府の思想は、いわばその対極だった。

今、日本は、近隣国から罵倒され、敵視され、信頼も愛情も勝ち得ていない。この事態に日本文明はどう立ち向かうのか。考えさせられる。

ゲスト / Guest

  • 山折哲雄 / Tetsuo Yamaori

    国際日本文化研究センター長 / Director, International Research Center for Japanese Studies

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