2005年05月18日 00:00 〜 00:00
吉冨勝・経済産業研究所長「東アジア共同体」4

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会見リポート

協調切り上げの枠組みづくり  

土屋 直也 (日本経済新聞経済部次長)

「東アジア各国の(対米ドルでの)協調した通貨切り上げは、年末の第1回東アジア首脳会議(サミット)の議題にふさわしい」──東アジア共同体構想について説明するなかで、吉冨氏は刺激的な問題提起をした。米国が財政再建できず持続不能の米国経常赤字が続くなら、米ドルは30%は切り下がらなければならないというコンセンサスが、国際金融の専門家の間にはあると言う。

それを「東アジア全体で一斉に実施すれば、域内貿易の比率が55%と高いため、それぞれの国にとっては実質的には15%以下の通貨切り上げの痛みで済む。成長率の高いアジアなら吸収可能なレベルだ」というのが冒頭の提言の趣旨である。

米国からの通貨切り上げ圧力をアジア域内で協調して緩和しようという提案は、持ちかけ方を間違えなければ、東アジア各国や米国から検討に値する提案と受け取られるだろう。特に、米国から為替調整圧力を集中的にかけられている中国にとってはありがたい提案となる可能性が高い。協調切り上げの枠組みづくりに成功すれば、通貨政策を通じてアジアの政治的な緊密度も高まる。アジア各国間の貿易拡大につながるという点でも、「東アジア共同体」に向けて東アジアサミットという舞台はかっこうの提案場所だと言える。

暴力的な反日デモや中国副首相の小泉首相との会談キャンセルで、中国への嫌悪感を持った日本人も少なくなかっただろうが、あらためて中国や韓国など近隣国との友好関係を築き直す必要性を痛感した人も多い。東アジア地域の経済関係を強固にして、地域の繁栄と平和、民主化を確実にしていこうという「東アジア共同体」構想のため、吉冨氏は国際的な評議会メンバーとして数年にわたって地ならしを続けてきた。その活動と発言にあらためて重みを感じさせられた。

ゲスト / Guest

  • 吉冨勝 / Masaru Yoshitomi

    経済産業研究所長 / Chairman, The Research Institute of Economy, Trade and Industry

研究テーマ:東アジア共同体

研究会回数:4

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