2005年02月16日 00:00 〜 00:00
尾身茂・WHO西太平洋地域事務局長「感染症とアジアの危機」

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会見リポート

健康と文明~鳥インフルエンザ

嘉幡 久敬 (朝日新聞科学医療部)

天然痘を根絶し、ポリオも克服しつつある人類がいま、新たな感染症の驚異にさらされている。新型インフルエンザだ。もともとは鳥に感染するウイルスが、東南アジアの国々で人間に感染し始めている。ウイルスの遺伝子がわずかな突然変異を起こすだけで、免疫を持たない人間社会に爆発的に広がり、日本でも10万人以上が死亡する可能性がある。

一方で、現実に急増している「死」がある。自殺だ。日本での死者は5年間で5割増えた。自殺が多いのは日本だけではないらしい。地上の楽園と呼ばれた南太平洋の国でも社会問題となり、医療や心理学、文化人類学の専門家が原因を議論したところ「関係性の欠如(Lack of Connectedness)」に行き着いたという。

人類は生活を豊かにするため、家禽を大規模に飼育し、自然を開発した。異種の動物と接触する機会が増え、人獣共通感染症という新たな感染症のリスクが増した。一方、人間同士の「接触」はといえば、家庭や地域、職場で、結びつきは急速に希薄になりつつある。 そこで、尾身氏は2つの提案をする。人間社会では、新しい関係性を構築する。高齢者、学者、NGOなどでコモンフォーラムを設立し、市民の社会貢献への意欲をくみ上げる。感染症に対しては、他の動物種とのすみ分けを徹底し、国際協力を強化する。感染者の隔離に伴う個人と社会の権利の相克など難問は多い。アジアにおける日本の役割はいっそう重要という。

マニラに赴任したのは90年。「以来、外からみていると、最近の日本はどうも内向きで、存在感が薄くなっているように感じる」。心配の種はつきない。

ゲスト / Guest

  • 尾身茂 / Shigeru Omi

    WHO西太平洋地域事務局長 / Regional Director of the Western Pacific Regional Office for the WHO

研究テーマ:感染症とアジアの危機

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