2004年08月06日 00:00 〜 00:00
永田俊一・預金保険機構理事長

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会見リポート

信託通から預金保険の伝道師へ

石川 潤 (日本経済新聞経済部)

預金保険機構理事長の永田俊一氏は信託協会副会長・専務理事を務め、金融界きっての信託通で知られる。今年7月には信託をテーマにした時代小説「透明な墓標」を永畑俊三のペンネームで上梓。幕末を舞台に、小藩の家老職である格之助が欧米から伝わった信託の仕組みを活用して社会改革に取り組むという筋立てが評判を呼んでいる。

そんな永田氏らしく、スピーチでは預金保険の仕組みを信託に重ね合わせて解説した。預金者は定額保護を受ける受益者、金融機関は保険料を納める委託者、預金保険機構は保険料を管理する受託者にたとえられるという。信託の基本である受益者、委託者、受託者の「信頼の三角形」の関係が預金保険でも成り立っているとみている。

永田氏が特に強調するのが、受益者である預金者の当事者意識。スピーチでは「十分な認識とプレーヤーとしての意識を強く共有することが、制度の安定に深く影響する」と力を込めた。

来年4月には普通預金などのペイオフがいよいよ解禁される。預金者の冷静で適切な対応が金融システムの安定にとってますます重要になる。預金保険の仕組みや機能、意義などを広く伝えることも自分の役割と心得ているようだ。ペイオフ完全解禁を前に、金融機関の名寄せ対応など、いくつかの課題が残る。それでも、普段は発言に慎重な永田氏が「(ペイオフ解禁を)そろそろやらなければ機を逸することになる」と言い切った姿が印象に残った。

信託の伝道師から預金保険の伝道師へ──。金融危機が遠のく中、持続的に運営可能な預金保険制度を作り上げることが永田氏の役割。預金保険の新しい物語はまだ始まったばかりといえよう。

ゲスト / Guest

  • 永田俊一 / Syunichi Nagata

    日本 / Japan

    預金保険機構理事長 / Governor, Deposit Insurance Corporation of Japan

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