2004年02月18日 00:00 〜 00:00
養老孟司・東京大学名誉教授


会見リポート

〝文明批評〟の響きあり

池田 龍夫 (個人会員(毎日新聞出身))

情報は日々変化しているが、それを受け止める人間は変化しないと思い込みがちだ。しかし「実は、あべこべの話だ」と、養老孟司先生はおっしゃる。

「万物は流転する」というヘラクレイトスの言葉(情報)は〝流転〟しないが、人間は寝ていても刻々変化する存在だと言われれば、まさにその通りである。

脳のメカニズムを追求している養老さんだからこそ言えることで、既成概念に凝り固まった現代人への痛烈な一語ではないか。どんな天才にも「バカの壁」があるという。脳細胞の偉大さを語る一方、人智では越えられない壁が立ち塞がっていることを強調される。西洋医学と東洋医学、一神教と多神教、日本語論、 〝個性尊重〟や〝公平・客観・中立〟の欺瞞性など、 〝解剖のメス〟は鋭く、文明批評に及んだ。

他者との〝共通了解〟の必要性を語り、「素手で戦った昔は簡単に人を殺さなかったが、刀・鉄砲・ミサイルと…バカな兵器によって 〝モノが人間を殺す〟愚」を告発する。そして「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」(平家物語)に、人間世界の姿が集約されていると説く。鐘の音は物理的には変わらないのに、時によって変わって聞こえるのはなぜか。脳のとらえ方が千変万化だから…。一元論(一神教)を否定し、昆虫学者の立場からも「生きとし生けるものを殺めず」の仏教思想に惹かれるという。ましてや、人を殺してはならない。夏目漱石の「則天去私」の心境に共感する養老さんは「別有天地 非人間」と色紙に記して、講演を結んだ。


ゲスト / Guest

  • 養老孟司 / Takeshi Yoro

    東京大学名誉教授 / Professor emeritus, Tokyo University

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